『道は馬に聞け』

「ハイパーウェポン2008 狂気の原風景‐そして真実」より

製作  蘭亭紅男

「ハイパーウェポン2008」の表紙絵の立体化。

これを何で立体化しようと思ったか、細かいことは忘れたのだが、小林誠先生とのやり取りで何かあったと思う。「これを立体化したら云々」的な何か。で、「この部分はこうする、どうする」的なことをウェブ上で私が言ったら先生が「実際に作る気は無いと見た」と言われたので、「あっ先生は俺が作らないと思っているね!」と思い、意地で立体化に至ったのである。

元になった絵

しかし、実作業はめんどくさかった。透明パーツが面倒だった。透明でさえなければ例えばパテなんかいくらでも使い放題で形を整えることが出来るのだが、そんなものを使えない、接着も塗装も出来ない、という透明パーツに終始悩まされることになる。

スケール的には表紙絵の人物をそのまま計測すると124ぐらいになるので124で最初は作ろうと思った。が、材料の問題が生じる。一つはタイヤである。112のバイクのタイヤを使えばいいのではないか、と思ったが微妙に合わない。むしろ135にした方がバイクのタイヤは流用パーツとして、しっくり来るのではないか、というイメージなのだ。112の自転車のタイヤパーツ(バイクよりは直径が大きめ)を買ってきたり、はたまたプラ材加工で一から作ろうとしたり、色々やったが、結局124はあきらめ、135で作ることにした。

124をあきらめたもう一つの理由は透明外殻の存在である。これをどう作るか。小林誠先生の言葉によれば「マウスのパッケージ」というアイデアもあったのだが、この形をよくよく見れば「上から下までまわりこんでいる」、つまり、普通の金型などのような「雄雌2個でワンセット」の型で作れる形ではないのだ。更に形に微妙な曲線の変化が入っており、既存の、「普通の金型でつくられた工業製品」の流用でやったのでは全然別物になってしまう!この部分はスクラッチするしかない、となった時、「塩ビ板ヒートプレス」というやり方で124スケールのこの外殻を作れる自信は私には無かった。これがスケールダウンの理由である。

順番としては表紙絵を135換算で縮小印刷、これを全てのパーツの基準とする。

馬、人物はランナーを芯にスクラッチ。馬に関してはタミヤなどから135キットが出ている(ドイツ軍フィールドキッチンなど)が出ているのでそれの改造、ということも考えたのだが(先生も完成後写真を見て「改造でもよかったのでは」と仰っている)、この馬はパワードスーツを着ており、「実際の馬とプロポーション的に実は違っているのでは」という感じがした。それに全身を鎧で覆ってしまうとなると、キットの折角のディティールを大部分隠してしまうことになり、もったいない、と思ったので100パーセント、スクラッチとなった次第である。

人物二人についても、アニメ体形の、流用可能な135キットなどそうそう出てはいないのでこれも100パーセント、スクラッチ。脚が結構細いのでうっかり折らないようビクビクと緊張しながら削ったりパテ盛りしたりした。

余談になるが、私は小林誠先生のマンガの描き方で非常に好きな部分が1点ある。それは「男性キャラはシュワルツネッガーあたりをモデルに非常にリアルなタッチで描いているのに、女性キャラは対照的に目が大きい、典型的マンガ的デッサン」という二律背反性を含んだ絵的構成になっている部分である。男は小林源文が描いているのに、女はロリ系マンガ家が描いている、かのようなコマで誌面が埋められている。他の漫画家、イラストレーターにはここまで極端には見られない特徴ではないか、と私は思っている。こういう描き方がどのようにして生み出されたのかは分からないが、それこそ紙の上でのミキシングビルドとでも呼びたくなるようなコラージュ的魅力があるのである。

閑話休題。人形の顔を作るのはそれほど面倒では無かった記憶があるが、面倒だったのは服である。元の絵でよくわからない形に見えたり、また私自身が服飾、ファッションに元々無関心、無知識なので「この部分はどう解釈すべきなのか」悩んだ部分はあった。結果として塗装も含めて何だかメリハリに欠ける人形造形になってしまった。で、髪の毛の造形に関してはエポキシパテで作り、半乾燥状態の時にアートナイフでディティールを入れていったのだが、この部分は服の部分等に比べれば思ったより上手く出来たと思う。

馬車本体は基本的にプラ板による造形。この馬車も「どのくらいの幅なのか」、絵が真横から見た一枚だけなので解釈に困った。普通に考えれば自動車並みの幅はあるのが当たり前である。しかし、これは元から破綻した絵だ!(失礼)どう見てもこの人物がこのスペースに収まって乗れるようには見えない。だから、実際の居住性云々よりまず全体のイメージ優先で作らなければならない。人形が乗れなくても構わないのである。これはそういう造形物である。

してみると、この一輪しか存在しないタイヤは何であるか。これは一輪で支えるのが可能な車体幅なのである。そう考えるべきである。だから、当初、私の持ったイメージはハネ上げ型のドアから「ランボルギーニ・カウンタック」だったが、外殻の曲線を眺めるうちに全然別のイメージに変わっていった。今考えれば昔のハイパーウェポンに載っていた戦闘機「オズ」の機首先端の透明コクピットと同様のデザインモチーフではないか、と思う。全体としてはやはり昔のハイパーウェポンや『迷宮都市』のモノコックボディ型・警察用バイクとも通じるデザインである。

タイヤは約112のバイクのオモチャから流用。スポークを伸ばしランナーで追加してある。コンソールにメーターらしきものが6個描かれているが、これはウェーブの細かいノズルパーツを接着して再現。

車体前部に煙突のように立っているユニットはプラ板の積層で製作。これの形も悩んだ。「実は真円の円柱なのか」とも思ったが、そうすると搭乗者の脚の真上に重そうな機械的ユニットが固定されることになり、搭乗者の精神的影響はよろしくない、と想像した。外殻全体が基本的に流線型の筈なので、この部分も空気抵抗を小さくした形になるのが当然、と思ったので、潜水艦のセイルのような形にしてある。元の絵の「影」の付き方に関して「真円ならもっとぼんやりした影がつく筈!」と思ったのも(上から見て)流線型断面にした理由の一つである。

で、問題の透明外殻。バルサ材の積層で原型を作り、塩ビ板をヒートプレス。この形を一体成型、とはさすがにいかないので左右、及び上面の3パーツ構成にしてある。最初は上面はいらないか、と思ったのだが、左右パーツだけだとどうしても上から見た時に隙間が出来てしまい、マヌケなのだ。

接着が効かないこのパーツをどう固定するかがまた問題で、絵にはヘッドレスト後ろに巨大な固定用ネジのようなものが描かれているのでその部分を透明プラパイプとランナー、流用パーツの組み合わせによる固定具として造形する。左右外殻のそれぞれ前部を、透明プラ棒加工による「自作プラ製リベット」を差し込むことで本体に固定している。

馬と車体の接続は底部に設置されたシャフトを馬の体から伸ばしたベルト状の物に固定しているように元の絵では見える。シャフトをプラ棒、プラパイプで造形、ベルトは0.5ミリプラ板の加工である。外殻後部横に透明なドロップタンクのようなものが存在する。適当な飛行機のドロップタンクを銀色に塗って取り付ければそれらしく見えるのではないか、とも思ったが、絵を見ているとやはり透明なパーツに見えるのでプラパイプを組み合わせて接着、ヤスリで削りまくってドロップタンク状の形にした。外殻に接着できないので、底部に取り付けたパイロン状のパーツで引っかけてある。

完成させたが、やはり完成度が低い。こういう戦車や戦闘機とは違うワイヤーや柱で支えられている乗り物の場合、確固とした造形イメージというか、プラモデルというより「置物」を作るつもりで作らないとまとまりの無いものに見えてしまう。各部をもっとしっかりと作らないと、と言うか、少し揺さぶったぐらいですぐ倒れて各接続部が外れてしまうような造形物ではイカン、と反省するしかないのである。

 

2011416日)

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