第3話 『悲しき義頭』
オリジナルストーリー全文
「隊長、一番乗りさせるのは、また、あいつらですか?」
「ああ、そうだ…」
「風下には立ちたくないね、俺は…」
「まあ、そう言うな、奴らのおかげで俺達は楽をさせてもらってるんだ」
「すいません、でもね…」
奴らとは義頭を装着したサイボーグ兵のことだった。
我が軍が進攻を開始して以来、当然のように戦死するものも多く、実戦がいかに難しいかを膚身で感じた我々は、思いもよらぬ方法でこれを解決しようとした。
話を聞いただけでは、おそらく信じるものはいないだろうし、事実だとすれば、神に対する冒涜だと叫ぶ者もいるだろう。
しかし、政府は実行に移したのであった。
「義頭を装着したサイボーグ兵士」とは、簡単に言ってしまえば、死亡した兵士の骨格と筋肉組織を利用し、戦闘能力だけをインプットされたコンピュータの義頭(Artifical head)を取り付けた戦闘機械なのである。
しかしながら、この義頭をつけたサイボーグ兵が実際に活動を続けられる時間はせいぜい48時間程度で、あとは生ものよろしく腐食していき、ついには動かなくなってしまうのであった。
この腐食した際に出る異臭がたまらないので、他の兵士たちは彼らの近くへ足を向けることはなかった。
「今日の二人はずいぶん体格がいいですねえ…」
「俺もよくわからないが、1人はレスラーだったこともあるらしい」
「いや、聞いたところによると、レスラーだったというのはかなり前の話で、入隊する直前までは警察のお世話になっていたそうですよ」
「やっぱりな…」
言い忘れていたが、サイボーグ兵にされる肉体の持ち主は、そのほとんどが犯罪者で、強制的に入隊させられた後は、つねに前線の特効部隊に編入させられた。
そして、結果として死亡率も高く、それらのうち、肉体の使える者だけに義頭を装着し再び最前線へ送り込まれるのだった。
もちろん、犯罪者と言えども親もあれば子もある。戦闘機械にまでなってしまえば、確かに誰であるかはわからないが、それでも元は人間だったのだ。
政府は国民の非難の声を避けるため、戦死した兵士の肉体はその場で焼却し、認識票だけを親族へ届けるといった、表面上は手回しのいいやり方によって、身内の者を納得させていった。
ガザール陸軍、バグ26中戦車。列国の主力戦車より性能的に見劣りはするが、その主砲から発射される高性能ミサイル(装弾筒付自律噴進徹甲弾)は敵戦車の上面装甲を貫通して沈黙させる必殺兵器であった。
バグ26に肉薄する義頭兵士。恐怖心を持たない義頭は真正面から重装甲の敵戦車に突撃することもためらわない。
対戦車砲、対戦車ミサイル、アサルトライフルなどで重武装した義頭兵士。負傷・欠損箇所をサイボーグ化して強化した義頭兵士は通常の兵士では担ぐことすら不可能な重兵器を装着して易々と行動する。装備の総重量は50kgを超えることまであったが、酷使された義頭兵士の肉体寿命はさすがに短かった。
「隊長!やつらがトーチカの破壊に成功したそうです」
「よし、行こう。10−04ポイントに散開して前進する」
私達が、彼らの前を通り過ぎようとしたときだった。
もう、半ば体のほうが動かなくなった二人の兵士がこちらへ向かって合図を送っているような気がしたのだ……
「奴等は、あれでよかったのかな?」
「なに、言ってるんですよ隊長。明日はわが身かもしれないんですぜ…」
「いや、俺がいいたいのはそんなことじゃなく…」
「隊長、敵の援軍です…」
「わかった。チーパーを呼べ、後は後続の部隊にまかせる」
チーパーに戻った私は、しばらくの間、彼らのことを考えていた…
何のために戦っているのだろうか…
誰のために…
悲しい奴らだ…
そして私も…
第3話 完
「バグ26」設定制作 ZETTON