6話 「オペレーション・ドラゴン(U)

204857日、ガザールとの国境に近いミケーレをわずか30分で占領したバランギの重戦車隊は、次の目標である“スラグル・トーチカ”の攻撃に入った。

が、これまでのガザール側の兵器とは全く別の巨大な兵器と対戦することになり、無敵を誇っていたバランギに暗雲が立ちこめていた……

バランギ・ガザール戦役初期にはスホーイ27系同士のドッグファイトが発生した。このロシアをルーツとする機体がいかに世界中に売れた商品であったかわかろうというものだ。

砂漠系迷彩が、ロールスロイス製エンジン、京都セラミック製電子機器などを独自に組み込み、バランギがライセンス生産した「BF-S101 ファイアラプター制空戦闘機」。青系高空迷彩が新ソヴィエトより直輸入のガザール空軍主力戦闘機「スホーイ37G」。

ガザールの航空兵力を軽視したままオペレーション・ドラゴンに臨んだバランギ軍。対して的確にファイアラプター隊を待ち受けて叩いたガザール空軍は予想外の戦果をあげ、それは地上戦の趨勢にも影響した。

 

高地の陰に潜み、バランギ戦車部隊を待ち受けていたガザール大機甲部隊。快速を生かして足の遅いバランギ部隊をたちまちにして包囲した。

125ミリ主砲を撃つ「バグ73」ガザール陸軍主力戦車。長距離射撃を得意とする長砲身主砲の斉射により、はるか遠方からバランギのメルカバMk.5戦車を串刺しにする。メルカバに装甲、電子装備では劣るものの、その速力と主砲性能、そして数的優位でついにはバランギ主力戦車部隊の進撃を挫いた。

炎上するバランギ輸送機。勢いに乗ったバランギではあったが、思わぬ伏兵スラグル・トーチカと、潜んでいた2個大隊以上の大戦車部隊により手痛い打撃を受けることとなる。

隠蔽壕より一斉に飛び出すバグ73。敵軍を引き寄せて一気に包囲するアンブッシュはガザール陸軍の得意とする戦法である。

黒い巨大な塊は動かなかった。

全くこちらの攻撃が通じていないようである。

なぜだ……

我々の乗る戦車の数倍と聞いていた動く要塞“スラグル・トーチカ”は、はるかに巨大に、しかも我々をあざ笑うかの如く、そこを動かなかった。

攻撃を開始して30分。

義頭野郎たちの小隊が次々と強烈な砲火になすすべもなく破壊されていった。

「だめです、あれはビクともしません」

「どこかを集中的に狙ってみろ!」

「それはもうやっています」

「あいつ、笑ってるみたいですね」

「笑われても仕方ないさ、無敵を誇っていた我軍がこんなにもけ散らされているんだからな」

「いや、そうじゃなくて、あいつ自身が笑っているようで…」

「何をいっている。中には何人もの兵隊が……」

「隊長、あのトーチカについてのデーターが入ってきました」

「何!」

私があの戦車の機械音の中で回りの者すべてに聞こえるような大きな声を出したのは、そのデータの中に「無人」の文字を見つけたからだった。

正確に言えば、人間の脳を機械に組み込んだ、巨大サイボーグなのである。

「あいつは自分の意志で動いているんだ…」

「何か方法はないのですか?」

「今はないだろう…、だが運があるとすればまだ、あの機械が完成品じゃないことだろうな」

「どういうことです」

「まだ、あいつの背中にはレールガンが付けられていないからさ。今は1度撤退して早いうちにもう一度総攻撃をかけるしかないさ」

「そのレールガンが、もし完成すれば、バランギに直接、打ち込むということですね」

「そうだ」

そう、スラグル・トーチカの本当の目的は恐らく私の知る限りでは最大級のレールガンを使っての都市攻撃なのである。

これを阻止するには、建造中の現段階で総攻撃を加えるしかないのだが…

それにはあの頭の良いトーチカ相手に今まで以上の作戦を練る必要がある。

「本部から入電です」

“一時撤退せよ”

我々はスラグルトーチカから一時撤退することになった。本部では空からの攻撃も加えての作戦に切り替えると伝えてきた。

しかし、そんな程度であのトーチカが簡単に落とせるとは誰も考えてはいまい。

「やっぱり隊長の言ったように2〜3日はかかりそうですね」

「そんな簡単に行ってくれると思っているのか」

「いっいいえ」

私は強い口調になっている自分の中に、あの巨大なトーチカに対する甘い見方をしていたことを反省していた。

 

2048年5月7日は我々にとって最悪の日となってしまった。およそ半数近い車両と兵隊を一度に失うことになったのである。

こうして第1回目のスラグルトーチカ攻撃は失敗に終わり、オペレーション・Dは再考され、2つの別動隊を配し、空軍との合同作戦に切り替わったのであった。

果たして、レールガンがその大きな砲口を我々に向けるまでに落とすことが出来るのだろうか?

スラグルトーチカは我々が撤退するのを見て、ほんの少しその巨大な体を動かしていた。

バランギの主力、メルカバMk.5は次々とバグHBx超重戦車の餌食となった。ついにバランギ軍は窮余の策として、レールガン装備の義頭回収戦車を重戦車迎撃に向かわせる。しかし、バグHBxの170ミリ砲はあまりにも強力だった。義頭回収戦車も一撃でトドメを刺されてしまう。

バグHBx超重戦車。170ミリ主砲、対車両用、対空用等各種ミサイルランチャーを装備。空重量でも100トン近い驚異的な存在である。オペレーション・ドラゴン時には先行量産型三十数両が動員された。あまりにトップへビーな構造の為、走行性能はお世辞にもよくは無い。しかし、その外観から来る威圧感、120ミリ級の砲では傷も付かないと言われる重装甲、直撃で無くともメルカバ数両を同時に沈黙させる170ミリ砲等、その存在感はバランギにとって絶望的でさえあった。

超兵器スラグル・トーチカ。超大型レールガンは未装備状態とは言え、巡洋艦クラスの主砲4門は敵機甲部隊を撃退するのに十分すぎる重兵装だ。バランギ陸軍の誇るあらゆる兵器が奮戦も虚しく砕かれ、潰えてゆく。バランギはこの史上最大の超重戦車に対して一発の有効弾も与えることが出来ず退却せざるを得なかった。

バランギ軍首脳部は作戦後、スラグル・トーチカに関する情報収集の不徹底を主な敗因として記録した。しかし、連戦連勝の陸軍機甲部隊の実力を過信し、航空兵力、敵戦術への対抗策を軽視した現地作戦参謀の責任追及は不可避であろう。

白文字(ストーリー) 「ホビージャパン」19886月号より転載

赤文字(写真解説)作製  Asアーカイヴス委員会 201012

第6話  完

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