Making of 『遥かなる恩讐』

AS製作雑記 

第一話「地平線の彼方に」

AS-1 HerayA型)、ガザール軍RF-114 FukkerG重装備偵察機

AS製作雑記 目次へ

20081120日記

                                       蘭亭紅男

合成による戦闘シーンの作成に関しては絵コンテを元に必要な模型、背景写真、素材を用意して行なった。

バランギ戦闘機はドラゴン製1/144 スホーイ27をそのまま使っている。製作期間を短縮するための既存モデル流用だが、「半世紀にも渡る非武装、という建前の結果、戦争初期は各軍とも旧式兵器を中心に使用している」ということでいいだろう。停戦協定のお陰でお互いに大規模な兵器の開発・生産が不可能、という条件なら、とりあえず旧式兵器使用でもおかしくはない筈!と無理やり話を進める。ただし、設定的には機体は紛争地などで戦利品とした、あるいはバランギ製のコピー版スホーイだが、エンジンは英国製ロールスロイス、電子機器は米国製、光学機器は京都セラミック製、等各国技術の集積品となっている。

炎上するガザール軍戦車は海洋堂「ワールドタンクミュージアム」から。

侵攻するバランギ機甲部隊の画は、NHKの歴史番組で「ソ連軍の満州侵攻」シーンに必ず使われる、「画面右から左奥へ向かって進むソ連大戦車部隊とその上空を飛ぶソ連軍機」という記録フィルムの構図をそのまま使ったつもりである。

問題は何故2048年の世界はこういう形になったのか、という過程の部分だが、ZETTON氏が考えたのは「日露戦争の敗北を原因とする、日本の分裂」である。

しかし、これは私には耐えがたい分裂理由だった。「よりによって、日露戦争で負ける?それでは明治日本の惨憺たる努力が全く失われてしまうではないか?」と、日露戦争という世界史的分岐点でもある事実を反転させることに拒否反応を示した。

それならどうするのか?

ちょうどその頃(20086月末頃)、私はマッキンダーの『デモクラシーの理想と現実』という本を再読中だった。「地政学」の祖とされる書物である。19世紀から20世紀初頭の、英国対ロシアの中央アジアをめぐる覇権競争「グレートレース」を基本に、「海洋国家対大陸国家」という世界情勢の力学を著者は述べていた。

この考え方に基づいて19世紀から歴史を改変してゆけば「日本がロシアに負ける」という日本のみならず有色人種・アジア諸民族全体の悲劇は避けられる。そのかわり明治日本・近代独立国家日本、という存在も消滅してしまうのだが。

 

1860年代、幕末日本における徳川幕府対倒幕派西国諸藩の対立はそれぞれ幕府にフランス・ドイツ、西国諸藩に英国が味方についた本格的な内戦と化してしまい、琵琶湖を境に二つに分裂した日本はそれぞれに列強の支配下に置かれてしまうことになった。アイヌ民族の独立運動を焚きつけるロシアの謀略は、日本の再統一を更に不可能なものにした。

英国は日本南西部を「英国領列島州」として支配下に置いたが、同時に世界各地の植民地で民族独立運動に悩まされていた。植民地経営がやがては財政的に破綻することは確実だった。そのため、形式的に各植民地を独立させ、ゆるやかな支配の下で露、仏、独、といった大陸国家列強勢力を包囲し、世界支配を維持しようとした。このようにして中東・イラクからインド亜大陸を経、マレー、台湾、日本列島に至る長大なユーラシアを南と東から囲む「準大英帝国」ともいうべき「バランギ連合帝国」が形成される。

一方でインドシナ半島を根城にしたフランスは混乱の続く中国に侵攻し、南部の軍閥を扇動して「タイグーン」を建国させるが、北日本、朝鮮、満州を勢力下に置くロシアと衝突した。ロシアの傀儡国家である北日本列島の「ガザール共和国」は、この対仏戦争と革命によるロシアの弱体化につけこみ、満州と朝鮮を自国領として大国化、共産ソヴィエトに形式上は同盟国として寄り添いながら、近代化、富国強兵を進める。

 

こう言う具合に近代世界史は日本帝国抜きで展開してゆくのだが、やがて米ソの代理戦争の形でバランギその他の国々が11年戦争を戦い、停戦協定の結果「バランギ」という名は南西日本にのみ残され、これがこの世界における「バランギ帝国」となる、というのが「俺版As世界設定」なのである。

『遥かなる恩讐』はこれらの前提の下に書かれ、更に完成版では最後部に位置する「ICX幹部たちの密談」がZETTON氏によって書かれて出来上がる。

As』のお話をここでついでに補完して、ついでの自分なりの世界説明をここで行うのも悪くあるまい。

リメイク前にZETTON氏と協議した事の一つはこの『As』の世界観であった。後々明らかになるのだが、バランギ帝国とガザール共和国、という物語の舞台となる2国家は元々は「日本」が分裂して出来たものである。と、そこまでが蘭亭が原典から掴んだ世界観であった。

ZETTON氏が凄かったのは、これを日本列島だけでなく、世界規模に広げたところだった。

まず、「タイグーン」を「新中国」とした。ロシア側陣営であろうガザールの領域はかつて構想された「大東亜共栄圏」である。物語中のソヴィエトはあるいは小林誠監督のアニメ作品『6エンジェルス』に登場する「新ソヴィエト」かもしれない。と、ここまでの構想に私蘭亭は唸った。自分の非力な創造力ではそこまで考えられなかったのである。

ホビージャパン19882月号の『As』には前文以外にストーリー的文章は付いていなかったように思う。当時買ったものは引っ越しの時だったかに売っ払ってしまったので、現在私の手元には無いのである(あれから20年も経って、インターネット環境などというものが存在して、『As』のリメイクを自分がやろうなどと誰が想像し得るだろう)。

Fukkerはいずれガレージキット化したいとも思っている、好きなデザインなのですが、今回の素材は主に1/144戦闘機やヘリコプターです。『エリア88』シリーズのF-8クルセイダー、A-4スカイホーク、FトイズのF-86セイバー、Mi-24ハインド、海洋堂「ワールドウイングミュージアム」の1/200F-15イーグル、F-4ファントム、といった機体です。基本形はハリアーで、スタイル的にはスマートでありながらゴツゴツと様々なパーツが突き出ていて武骨さも同時に感じさせ、更に末広がりの主翼が怪物性をも感じさせる、『AS』の世界観を象徴する優れたデザインだと思います。

CG図版の素材に使ったのは1/144スホーイ27戦闘機、不動産屋の新聞広告にあった都市俯瞰写真などです。機首や後部の緑色の部分は工場の写真の加工。それらを縦横に引き伸ばしたり、縮めたりしてパーツにしています。

協力者のZETTON氏に、「やはり遠回りではあっても「立体化」にこだわるべきかな、と思います。(中略)オリジナルはやはり立体化するのがよろしいかと」と、言われたのですが、この二つのメカは時間の問題でCG合成による作成にさせてもらいました。問題はHerayの方でして、原典ではステルスボマーのパーツの表面に、幾何学的に刻んだ0.2ミリプラ版を貼って作っている、という凄まじく手間のかかる作業を行っております。写真から推察するに、一枚一枚外装を細かくジグソーパズルのように組み合わせたのではなく、Pカッターなどでパターンを彫刻したのではないか、とも思いますが、それにしても複雑かつ、無数のディティールはとても数日やそこらの作業で出来るものではないので、立体化は断念しました。

絵コンテその1

Making of 『悲しき義頭』

As』の世界観を決定づけた「義頭」初登場の回である。

新登場する造形物が原典では義頭兵士2人だけなので、これをこのままリメイクしたのでは寂しい、とは常々思っていた。それに私はkyowjuさんのような見事な造形力で義頭兵士を形にすることが出来ず、またその義頭兵士のスケールも小さいものなので、「造形物の数で誤魔化そう」と考えた。

製作途中の元プロレスラー、元ヤクザ義頭

原典のストーリー本文中には「義頭兵士の元になっているのは戦死者、それも真っ先に突撃させられた前科者部隊の連中」ということが語られている。そこから「いかにも元プロレスラー」「いかにも元極道者」という姿のオリジナル義頭兵士を作ろう、と思った。この連中を主役にして、ガザール軍相手の大活劇場面を作ろう、と考えた。

当初、この回のタイトルは原典通りの『悲しき義頭』ではなく、『GOGO義頭!』にするつもりだった。ギャグを前面に出したストーリーにして原典の辛気臭いストーリーの方をオマケにし、義頭の造形の拙さを隠ぺいするつもりだった。

しかし、小林誠先生本人から当時の思い出を聞いたところ、この「義頭」という素材は扱いを間違うと危ない方向に行ってしまうことが危惧され、意識してこの後セーブする方向に持っていったのだ、とのことだった。「ホビージャパン」という「精神的に大人になり切れていない中高生」が読者の中心である媒体で、不用意にこのような「人体を切り刻んで遊ぶ」ような題材を無制限に扱うのはよろしくない、という先生本人の自制意識が働いたようだ。

事実、この「手足や臓器を機械化するような、これまでのSFにおけるサイボーグ化とは違う、コペルニクス的転回」とも言うべき卓越した発想「義頭」は読者に大受けしたそうだ。読者ページには義頭の一種として、犬の頭を取り付けた兵士のイラストが投稿され、採用されたりした。他にも『As』世界を代表するアイテムとして義頭の発想とビジュアルは、発表当時大反響を呼んだ。小林誠先生を中心とするスタッフ側は一層表現に注意を払わねばならなくなったものと想像できる。

 

絵コンテその2

そんな訳だから、このアーカイヴスにおいても、そういう方向での暴走は控えるしか無かろう、と判断した。元プロレスラーや元ヤクザの義頭兵士は1/35で製作したが、あまりポーズをつけることも出来ないので、ただ出演しただけである。元ヤクザはタミヤの陸自オートバイ隊員のセット、元プロレスラーは現用米軍兵の改造である。ちなみに元ヤクザの方は背中に入れ墨を入れようと努力している。小さいサイズに直接筆での手描きなので上手くいってはいない(そもそも私は入れ墨自体に詳しくない)。この発想はあるいは毒猿さんの「Tattoを塗装したSAFS」あたりから思いついたのかもしれないが、はっきり憶えていない。

プロレスラーの現役時代の写真は1/20のタミヤのレーシングチームメンバーの改造で、これは以前、千葉真一主演の映画『殺人拳』の立体化をやった時に、敵役の黒人として作ったものである。

 

メインとなる義頭兵士は約1/22。これはバンダイの「可動・超造形 仮面ライダー」というシリーズの、仮面ライダークウガの敵、クモ怪人を改造した。このクモ怪人は全6種ぐらいのシリーズ内で一番売れなくて、秋葉原の某中古ショップで一体50円で売っていた。それを何個も買いこんできて、兵士の素体にしている。

昔複製したガシャポンのモビルスーツのパーツの抜き損じなどを加工、装甲としてエポキシパテでくっつけた。せっかくの可動を殺すのは嫌だったので左腕以外は関節が動くが、そのせいで原典よりかなり痩せたスタイルになってしまった。左腕には3本の爪が付けてあるが、これは原典には無い。原典では左腕にだけパワーアームの如き強化義手が装着されているのだが、「それならそれで義手の先に大きな爪を付ければ重量物運搬に使えたり、対人格闘時の有効な武器になるではないか」と思ったので写真のような爪をプラ材で製作した。

時間の都合で可動義頭兵士は1体しか作れない。それを何体も存在するように見せるにはデジタル技術を使えば良いが、更に義頭一体一体に「個性」を与えるには武装を何種類も作って、何度もそれを付け替えて撮影すれば良い。

これは小林誠先生から聞いた「ハイパードルバック」の例から発想した。

「モデルアート」編集部を通じてグンゼの「ドルバック」シリーズの売上UPのための作例を依頼された先生は、安価ながら『SF3D』以上の楽しみ方が出来る活用例として、シリーズのパワードアーマー本体とは別に現用戦闘機のミサイルなどの武装を買って装着する、という方法を考えつく。更には何体ものアーマーにそれぞれ一体ずつ違う武装を施すことによって画面にメリハリをつけたのである。グンゼはこれを元に「ハイパードルバック」シリーズとして、それまでのアニメ番組主体の展開より一段階上級の、新たな商品展開を行ってゆく。現在まで通じる「ドルバック」シリーズ・プラモデルの人気は主にこの「ハイパー」の力による。

そのアイデアをそのままいただき、ミサイル、対戦車砲など武装だけを4種類ぐらい製作して、その武装を付け替えては撮影、付け替えては撮影、の繰り返しで何種類もの義頭兵士を形にした。この、ミサイルなどを背負ったり腕に装着したりした義頭兵士というのも原典には存在しない。原典における義頭兵士の武装は基本的に通常の歩兵と同様の小銃、あるいはスマートガンといったものである。

バランギ側だけ存在しても戦いのドラマにならないので、やはり原典にはこの回は登場しなかった敵戦車を造形する。イラストやマンガにのみ登場し、立体化はされなかった筈の「バグ26中戦車」である。これをヤラレ役にする。

フジミの1/76「陸上自衛隊74式戦車」を改造。

ZETTON氏に設定を作ってもらう。

この戦車は19894月号の「ガザール軍兵器一覧」的見開きイラストの左下に描いてあるのだが、武装は「105ミリ・ミサイルランチャーカノン」「近接CO2レーザー」となっている。105ミリ、というのは戦車の主砲として、しかも2048年という年代において口径として小さいのではないか、と思ったが、一方現実世界ではアメリカ陸軍の「M60A2」という戦車が1970年代に存在し、これが「150ミリ・ガンランチャー」という、ミサイルも戦車砲も撃てるという一種の万能兵器的な武装を持っているのである。

スタイル的にもあるいはこれが「バグ26」のモデルかもしれないのでは、とZETTON氏に提言し、手持ちのタミヤのキットの解説文も参考に送ると、追加調査も加えて、ふさわしい設定を考えてくれた。ちなみに私からは「この回では義頭にやられるヤラレメカだが、だからといって弱い戦車ではない」という具合にしてほしい、と注文をつけた

その結果、提示された設定は「戦車砲からミサイルを放つ戦車」というものだった。

重装甲を誇る敵主力戦車の脆弱な天蓋部分をミサイルで破り、また、待ち伏せや狙撃、機動力を生かした戦術を取れば、メルカバMk.5クラスの敵車両にも充分対抗し得る。

後々のストーリーではこの設定を活用して物語を作ることも出来る筈である。

 

2009年1月21日記

inserted by FC2 system